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独自の排水浄化装置を普及させ世界中にきれいな水を届けたい

月刊「ニュートップL.」 2013年11月号 編集部

画期的な独創性が高く評価される排水浄化装置「アクアブラスター」を開発したアイエンスの吉田憲史社長。従業員はわずかに4名ながら、大企業のプラントへの導入事例を重ね、そのコストダウンに貢献している。独学で研究を重ねた吉田社長が、その開発の経緯を語る。

株式会社アイエンス社長  吉田憲史氏靱(うつぼ)公園に近い小さな雑居ビル。その一室に入居するアイエンス大阪オフィスには、同社の環境改善システムの導入事例として、様々なプラントの写真が展示されている。事例の多くは大企業で、プラントも大きい。対する同社は、従業員4名。営業活動は代理店が行ない、製品の製造は協力工場に委(ゆだ)ねたファブレスで、同社は吉田憲史社長を中心に環境改善システムの研究開発に特化する。

主力製品の1つである「アクアブラスター」は筒状の排水浄化装置で、浄化槽内に設置しておくと、下部のノズルから噴射された空気が筒内で微細(びさい)な気泡に変わり、旋回流(せんかいりゅう)が発生。汚水が攪拌(かくはん)されて浄化槽内に酸素が行き渡り、水中の微生物による生分解作用によって、悪臭のもとになる汚泥の発生を防ぐ。

こうして水を空気にさらす方法はエアレーション(曝気(ばっき) )と呼ばれ、排水処理技術の1つとして確立されてはいた。しかし、従来の装置では浄化槽内に酸素を送ることに主眼を置くだけで、汚水は攪拌されず、汚泥の沈殿を防ぐことができなかった。アクアブラスターは筒内に特殊な形状の突起物を設けることで、微細な気泡を発生させることに成功。また、突起物によって旋回流が生じて浄化槽内で汚水が循環するため、汚泥の発生を防ぐことができる。

大手プラント会社や自動車メーカー、製パン工場など、アクアブラスターの導入実績は、過去10年間で約60件。自治体などが定めた基準値をクリアすることで、排水をそのまま下水に放流できるようになった企業では、年間1,200万円のコストダウンに成功したという。また、硫化水素が発生するため24時間の監視態勢が必要だった企業では、監視員の人件費や汚泥処理用の薬品代が不要になり、年間1,900万円ものコストダウンを実現している。◇    ◇    ◇ 工場排水にもいろいろあって、たとえばメッキ工場と弁当工場では汚れの種類が違います。ですから、浄化のメカニズムも個別に異なるのですが、おおざっぱに言ってしまうと、汚泥(スラッジ)の原因は微生物の代謝不全なんです。「不完全燃焼」と同じような状態になって、悪臭が発生し、燃えカスが残る。それが汚泥です。要するに、代謝に必要な酸素が足りないわけです。

すると、微生物は酸素に代わる別の気体で呼吸せざるを得ない。そのとき、硫酸イオンで呼吸してしまうと、汚泥とともに硫化水素が発生する。硫酸ガスですね。工事中に不幸な事故が起きたり、下水道管が腐食してボロボロになるのは、そういうわけです。

ですから、汚泥や悪臭を防ぐには浄化槽のなかに十分な酸素を送りこむ必要があるのですが、水は汚れるほど酸素が溶けにくくなるんですね。しかも、粘性が強くなる。どろどろとした水になるわけです。そういう水のなかに酸素を送りこむのですから、気泡はできるだけ細かいほうがいい。そして、バシャバシャと勢いよく大量に発生させて、浄化槽内に水流を生む必要がある。汚水が循環することで、底に沈殿した汚泥を巻き上げるんです。

ところが、アクアブラスターはもともと私の経験則から生まれた製品です。もちろん、しっかりとした科学的根拠もあり、導入実績を積み重ねたいまではデータを蓄積して、その検証もできていますが、当初は私も知識不足で、また経験が不足していたため、十分なサンプルがなく、排水処理の成果が不安定でした。見違えるほどきれいな水に変わることもあれば、思うような成果が表われないこともあったわけです。

そうなると、お恥ずかしい話ですが、だんだんと自信が揺らいでくる。排水処理に関する考え方や方向性は、基本的に間違っていないという信念があって独立したはずなのに、結果が出ず、お客様にお叱りをいただくと、自分がとんちんかんな研究をしていたのではないかと、不安になるんですね。でも、「そんなはずはない」と強く主張する自分もいて、創業から2年くらいの間は、ほとんど仕事がなかったこともあり、ずいぶん苦しみました。

「浄」の文字に技術的確信を得る

▲青い部品がアクアブラスターのブロア。筒の上部に微細気泡発生装置(右から2つめ)を設置する そうした状況は自分の知識不足が原因ですから、専門家をお訪ねしてアドバイスをいただいたり、専門書の難解さに悩まされたり、とにかく連日、勉強です。藁(わら)にもすがる思いで、いろんな先生のお話をうかがいに行きました。

そういうなかで、ある日、微生物の研究で権威ある先生を京都にお訪ねしたことがありました。ところが、私の頭が悪いせいで、せっかくのお話も、いまいちよくわからない。その帰り、うどん屋に入ったのですが、どういうわけか、なかなか注文の品が出てこないんですね。待つ間、ぼんやり店内を眺めていると、壁に飾られた額が妙に気になりました。京都ですから、おそらく偉いお坊さんの書でしょう、「浄」と書いてある。しばらく見ているうち、はたと気づきました。「ははあ、やっぱり間違ってなかったんや」と。

浄は「水」が「争う」と書きますね。水と水が争うように激しくぶつかり合えば、きれいになる。酸素と水が混合されて、微生物がきちんと代謝する環境が整うからです。同時に、これはまだ学術的に仮説の段階だと思いますが、水と水がぶつかるときの電気的な反応によって、汚れの原因となる物質が砕かれるといわれています。ですから、微生物にとって分解しやすいサイズになる。すりおろしたリンゴが食べやすいのと同じですね。漢字をつくった昔の人は偉いもんやなあと、心から感心しました。

結局、成果が不安定だったのは、浄化槽の大きさや汚水の状態に対して、どれくらいの酸素を供給すればよいか、きちんと計算できていなかったんですね。以来、計算式の係数を変えるなどの修正を加えて、問題は解決しました。おかげさまで、現在までのところ、排水処理に失敗してお客様にご迷惑をおかけするような事例は1件もありません。◇    ◇    ◇ 1964年、吉田社長は兵庫県に生まれた。県立神戸甲北高校を卒業し、83年、業務用清掃用品などを扱う中堅商社に入社。東京、名古屋、姫路の各支店に勤務した。

95年1月、姫路で阪神・淡路大震災に遭遇。故郷・神戸の壊滅的な被災状況を見て自分の無力を痛感し、それまでの安穏(あんのん)な会社員生活に疑問を感じるようになったという。何か復興に携わる仕事がしたいと、同年3月、勤務先を辞めて神戸市内の建設関連会社に転職。だが、建設関係はまったくの門外漢で、もどかしさは募るばかりだった。

その後、独学で勉強を重ねて一級建築施工管理技士の資格を取得。CADも独習して身につけると、98年、設計の腕を見込まれ、兵庫県内のホテルの厨房排水処理施設について、その改修工事を依頼された。浄化槽の悪臭が、建物内に漏れ出していたのだ。当然、排水処理は未経験だったが、これまた独学で勉強し、「見よう見まね」で散気管を製作。施工すると数時間後には成果が表われるほどで、同ホテルの排水処理費用は従来の6分の1に軽減された。この散気管が、アクアブラスターの原型となった。

この1件が評判を呼んだのか、続いてより大きなホテルから同様の依頼を受けたが、これも見事にクリア。手応えを感じた吉田社長は2000年、独立してアイエンスを創業した。だが、それは苦難の始まりだった。ホテルでの実績を武器に営業を繰り返すが、無名のベンチャーではプレゼンの場さえ与えられず、ほぼ半年間は門前払いが続く。その後、代理店経由でいくつか仕事を獲得できたものの、ミスが重なる不運にも見舞われ、思うような成果は出なかった。やがて、2年後には創業資金の2,000万円が底を尽き、吉田社長は苦境に立たされた。◇    ◇    ◇ もう、どん底でしたね。でも、ありがたいことに、このとき財団法人ひょうご産業企業活性化センターから出資していただくことができて、協調融資と合わせて3,800万円ほどお金ができました。以降、それをもとに新産業創造研究機構や島津製作所など、私どもの技術にご理解をいただいていた研究機関や企業の協力を得て、実験を繰り返しました。データを蓄積することで理論を補強し、排水処理の精度を高めるためです。

実は、排水処理の専門家ではなかった私がアクアブラスターを開発することができたのは、趣味のおかげなんです。ウソのような本当の話です(笑)。

役立った趣味の1つは、園芸です。あるとき、「排水処理は、基本的に堆肥(たいひ)処理と同じだよ」と教えてくれた方がいたんですね。酸素の供給がポイントになるということです。堆肥処理なら、ある程度はわかります。その考え方を応用すれば、汚水も処理できる。そう気づいたのが、1つの突破口になりました。

いま思えば、そうして「搦(から)め手」からアプローチしたのがよかった。もし、排水処理を真正面から勉強していたら、おそらく従来の計算式や研究に足を取られて、アクアブラスターのアイデアは発想できなかったと思います。

いつしか流体力学を学んだ渓流釣りとウインドサーフィン

そして、もう1つの突破口を私に与えてくれたのが、渓流釣りとウインドサーフィンでした。流体力学と言うと恰好がよすぎますが、渓流釣りもウインドサーフィンも、水や空気の流れを考えなければいけません。たとえば、水と水が「争う」状態はキャビテーションと呼ばれるのですが、水や空気に乱流を起こすわけで、通常はいかにキャビテーションを抑えるかに知恵を絞ります。

ところが、あえてそれを起こせば「争う」状態が生まれる。アクアブラスターの筒内に突起物をつくろうと考えることができたのは、そういう知識があったからだと思います。◇    ◇    ◇ 創業後の数年間、吉田社長は雌伏(しふく)を強(し)いられたが、実験を重ねて排水処理技術の精度を高めるうち、環境問題に対する社会的な関心が盛り上がったことも影響して、同社の経営は徐々に軌道に乗っていった。

05年にはアクアブラスターの独創性が評価され、関西ニュービジネス協議会が主催する「NBK大賞」で、環境・アメニティ部門賞を受賞。現在、排水処理とその技術を応用した排ガス処理を二本柱に、同社の製品は海外にも販路を広げつつある。◇    ◇    ◇エアレーションのほかにも、排水処理技術はいろいろあります。でも、それらは水の状態に応じて薬品の量を変えるような高度なノウハウが不可欠で、有毒ガスの発生を考慮した厳しい管理態勢も必要です。経済的なコストもかかる。発展途上国にとって、そのハードルは決して低くないのが現実なんですね。

ところが、アクアブラスターをはじめとする私どもの環境改善システムなら、特殊なノウハウも24時間の監視員もいりません。コスト面でも、ランニングコストが安いので、従来の方法に比べれば負担は軽いと思います。そういった点を活かして、タイやベトナム、マレーシアなど、まずは東南アジアで需要を開拓しているところです。

そして、いずれはアフリカをはじめ、水資源の枯渇(こかつ)に悩む国にも進出したい。私どもの現状を考えれば、まだまだ夢のような話かもしれませんが、濁(にご)った水しか飲めない子供たちに、日本の水のようなきれいに澄んだ水を飲ませてあげたいんです。微力ですが、いつか必ず実現したいと思います。

▲アクアブラスターの稼働中の様子。規則的な泡によって 浄化槽内の汚水が循環している

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